細分化の究極系 SKAGs について考える

Googleが推奨したわけではないですが、検索広告のアカウント構造はSingle Keyword Ad Groups(SKAGs)にするのが良いと言われた時代がありました。「SKAGs」は主に英語圏で使われている表現です。日本だと「1キーワード1広告グループ」とか「1広告グループ1キーワード」とか言われることが多いものですけれども、要するに広告グループにキーワードはひとつだけにすることで、キーワードごとに広告を出し分け、キーワードごとに入札単価・入札単価調整比率を調整するのが良いのではないか、という考えです。

「Hagakure」が登場するまでは「SKAGs」にするのがハイレベルなリスティング広告運用の入り口だったと言っても過言ではなく、変にキーワードをまとめると「出し分けができていない」「サボらないでちゃんと分けろ」と怒られたりもしました。

「Hagakure」が登場してからは、「インプッションボリュームが下がって最適化がされない」と敬遠されたり、「今は自動化だから集約させる時代。分けるのは古い」と論外であるかのように断じられることもあったりします。一方では、「Hagakure」の登場後も自動入札や機械学習を信用せず「細分化をしないと出し分けができない」と信じて「SKAGs」での運用を続けている人もいたりし、どうしたらいいのか分からない時代になりました。原因は、どちらの発言も分母が大きすぎるからなんですが。

というわけで、「SKAGs」を否定する論調も肯定する論調もどちらも本質的ではないものが多く、誤解をされていることが多いと感じているので、今回は細分化の究極系「SKAGs」について解説します。

アカウント構造を「SKAGs」にする目的

アカウントの構造を「SKAGs」にする目的は大きく分けてふたつあります。

ひとつは、広告を細かく出し分けすること、もうひとつはターゲティングや入札単価を細かく調整することです。検索広告の効果を最大化するためには、どんな条件(キーワード・デバイス・ユーザー属性など)でオークションに参加し、いくらで入札して、どんな言葉の広告を見せるのか、そして、どのリンク先に行ってもらうかをどれだけ理想的な状態にできるのかが重要です。

検索広告は、その広告グループ内に登録されているキーワードが検索されたら、その広告グループに登録されている広告のどれかが表示されるという仕組みであること、デバイスやユーザー属性などの入札単価調整ができる最小単位が広告グループであることから、それぞれの広告グループにキーワードはひとつだけにすることで、もっとも良い状態が作れると考えられていました。2015年以降にこの業界に入られた方にはピンと来ないかもしれませんが、そんな時代があったんです。

ところが、Googleが「Hagakure」を推奨する流れで「SKAGs」を否定するようになりました。

また、「Hagakure」の登場当初は懐疑的だった代理店たちも、次第にGoogleの論調に乗っかるようになってくると、ターゲティングや入札、広告のセレクションは機械学習に委ねる考え方が主流となり、いまでは「SKAGs」での運用はほとんどされなくなりました。というのも、「SKAGs」には大きな問題があるからです。

「SKAGs」の問題:人力でのコントロールは不可能

「SKAGs」は、キーワードごとに広告を出し分けて品質評価を高めること、細かくターゲティングして無駄な広告表示をなくすこと、細かくメリハリのある入札単価の調整をすることを目的としています。

コンセプトとしては素晴らしいもので、現在でも通用する考え方です。ですが、それはあくまで、コンセプト通りに実行できた場合の話です。現実には、十中八九いわゆる絵に描いた餅になります。

「SKAGs」は必然的に管理対象の数が多くなります。例えば、キーワードのテキストが100個存在した場合は、調整しなければならない入札単価・入札単価調整比率の数は、キーワードのテキストの数 100個 x マッチタイプ 4種類 x デバイス 3種類 x 性別 3種類(「不明」があるから) x 年齢層 … と膨大になります。また、なるべく細かく調整をするためキーワードも細かくなります。

このような膨大な量を見ることも難しく、キーワードは数万個も登録されていても半分以上のキーワードは一度も表示されていなかったり、定期的に入札調整がされているキーワードは1,000個あるかどうか、合格点のラインで調整がされているキーワードは100個から多くて200個、せっかく広告グループを細分化しているのにデバイスやユーザー属性による調整はされていなかったり、キャンペーンのレベルでしか調整されていなかったりするのが実際です。

自動入札が登場する以前は他に手段がなかったので、現実的には手が追いつかずに理想の配信・調整ができなかったとしても「SKAGs」が一番マシな状態だったこともあります。しかし、自動入札が発展した現在となっては、自動入札が利用できる場面では自動入札を利用し、その自動入札をよりよく機能させるためにはどうしたら良いのかを考えたほうが、理想的な配信に近づくことが多くなっています。自動入札を利用できる状況なのにあえて「SKAGs」を選択する理由はありません

「SKAGs」的な細分化が有効な場合も存在する

さて、ここまで「SKAGs」は絵に描いた餅だと、考えは立派だが中身が伴わないと批判してきましたが、では「SKAGs」はもうオワコンなのか、細分化の時代は終わっていまは集約化の時代なのか、というとそうではありません。

状況次第では「SKAGs」までは行かなくとも、ある程度までは細分化をした方が良い場合もあります。むしろ、Googleの刷り込みが効きすぎて、「集約化させてインプレッションボリュームを高めれば高めるほど良い」と思い込んで、とにかくまとめようとする風潮の現在においては、あえて「まとめて大丈夫か?」「分けなくていいか?」と立ち止まって考えることも重要です。

要は、自動入札が利用できなかった時代は細分化しか選択肢がなかったものが、自動入札が発展したことで集約化という選択肢も追加されたので、状況に応じて使い分ける時代になったということです。

入札戦略で「個別クリック単価」を選択する場合

自動入札も万能ではありませんので、コンバージョンの件数が推奨される件数に届かない場合や、ビジネス全体の最適化の観点で自動入札の利用が適さない場合は、入札戦略で「個別クリック単価」を選択する場面も出てきます。「個別クリック単価」を利用する場合は「SKAGs」に近い構造にしてあげないと、適切な入札調整ができないので無駄が多くなってしまいます。

コンバージョンの件数が推奨される件数に届かない場合は明確ですが、ビジネス全体の最適化の観点で自動入札の利用が適さない場合は様々です。共通する要素を一言で表現するならば、自動入札では「こう配信をしたい」という状態に近づけられない場合です

代表的な例を上げると、複数の店舗や営業所があるビジネスで、店舗・営業所ごとに広告予算を決めているような場合です。店舗・営業所ごとにキャンペーンを区切らないと予算に合わせた配信をできません。そして、店舗・営業所ごとにキャンペーンを区切ったらキャンペーン毎のコンバージョン件数が推奨ラインに届かない場合は「個別クリック単価」を利用せざるを得ません。

第三者の運用支援・自動化ツールなどの支援を受ける場合

「SKAGs」の最大の問題は人力では管理しきれないことです。

逆の言い方をすれば、機械の力を借りれば絵に描いた餅を食べられる餅にできます。具体的には第三者の運用支援・自動化ツールを利用すれば管理できます。そして、その運用支援ツールに備わっている入札自動化機能を利用する際は、アカウントの構造は「SKAGs」にしたほうが良い調整ができます。ツールによっては「アカウントの構造はSKAGsにしてください」と明言しているものもあります。

というのも、媒体の自動入札と第三者の運用支援ツールで利用できる入札自動化機能は、おなじ「入札調整を自動化するもの」ではありますが、その実態は似てもいなく、完全に非なるものです。

媒体の自動入札は管理画面上では得られない様々なシグナルを利用してオークションが発生するたびにリアルタイムで調整をしてくれるものです。一方で、第三者ツールの入札自動化機能は、管理画面から取得した数値をもとに、その運用支援ツールのアルゴリズムで計算して、その計算結果を管理画面に返す仕組みです。ですから、第三者ツールの自動入札機能はあくまで、管理画面でできることしかできません。言い換えると、第三者ツールの入札自動化機能は、人間でもできることを、人間ではできない量を、人間ではできない速さで実行してくれるものです。

本質を見失っている「SKAGs」の例

「SKAGs」の真意は、キーワードごとに広告を設定すること、入札単価・入札単価調整比率をなるべく細かく調整することの2点です。あくまで、細分化をしているのはこの2点を実現するためで、細分化をすることが目的ではありません。ですから、この2点に対してマイナスでなければ、必ずしも広告グループ内に含まれているキーワードがひとつだけである必要はありません。逆に、広告グループ内にキーワードがひとつだけだったとしても、広告をしっかり設定していなかったり、個別クリック単価以外の入札戦略を使ったり大味な調整しかしていないのであれば「SKAGs」にしている意味がありません。このセクションでは、その本質を見失ってやってしまいがちな失敗例を紹介します。

マッチタイプ違いも広告グループを分けている

マッチタイプが異なるだけで同じ文言のキーワードを別々の広告グループにしてしまって、各広告グループに本当にキーワードがひとつだけしか存在しない状態にされることが多いんですが、その必要はありません。

「SKAGs」の目的は、キーワードごとに広告を設定すること、入札単価をなるべく細かく調整することの2点です。マッチタイプが異なるだけで、広告の訴求やリンク先が変わることはないでしょう。「いや、変わるんだ!」という場合、部分一致に近い方のマッチタイプのキーワードで広すぎる検索語句をカバーしている状態なので、そもそもキーワードのテキストによる広告グループの細分化が足りません。また、複数のキーワードがヒットしている場合はマッチタイプが厳しい方のキーワードの入札単価が利用されるというルールもあります。

ですから、マッチタイプが異なるだけのキーワードの広告グループを分ける必要はありません。なお余談ですが、Google 広告・Yahoo!広告において「キーワード」は、キーワードのテキストマッチタイプが合わさってひとつのキーワードです。なので、「SKAGs」をより正しく説明すると「ひとつの広告グループにキーワードのテキストはひとつ」というべきでしょう。

表記の違いで広告グループを分けている

「キーワードを広告に含めなきゃ」と強く思い込んでしまって、「口コミ」「クチコミ」「くちこみ」をすべて別々の広告グループにして以下のように広告を設定してる例を見ます。

  • 代理店 口コミ → 口コミで高評価の代理店/acssemble
  • 代理店 クチコミ → クチコミで高評価の代理店/acssemble
  • 代理店 くちこみ → くちこみで高評価の代理店/acssemble

別のパターンだと、いわゆる表記ゆれに対しても細分化をしている例を見かけます。

  • acssemble 無料診断 → acssemble/Google 広告の無料診断受付中
  • アクセンブル 無料診断 → アクセンブル/Google 広告の無料診断受付中
  • あくせんぶる 無料診断 → あくせんぶる/Google 広告の無料診断受付中

「口コミ」と「クチコミ」と「くちこみ」に対して、それぞれ個別の広告を設定する必要があるのか、個別に調整をする必要があるのかというと、ないですよね。表記ゆれについてもそのとおりです「アクセンブル」と検索している人に対して「acssemble」と表記したら認識してもらえないのならそもそも指名検索になっていません。広告の関連性は、単純な文字列での判断ではないので、これらは意味のない過剰な細分化になります。

設定されている広告がすべての広告グループで同じ

「SKAGs」は、キーワードごとに広告を出し分けて、なるべく品質評価を高くしようという取り組みです。キーワードごとに広告を設定できるように広告グループを細分化したのに、設定している広告が広告グループをまたいで同じなのでは意味がありません。ですが、実際にアカウントを診断すると広告グループは20,000個くらいあるのに、すべての広告グループに同じ3パターンの広告が登録されているだけ、というケースはよく見ます。

広告グループの構造を細分化したことだけでは意味がありませんから、細分化したのなら細分化したなりに、各広告グループのキーワードに合わせた広告を作りましょう。

運用者よ、ビジョンを持て

Googleが推奨してくる内容はディーラーで新車を買うときのオプションや、代理店で生命保険に入るときの特約、ショップで携帯電話を契約するときに勧められる色々なサービスみたいなものです。ひとつひとつの内容は「ないよりはあったほうがいい」ものですが、それは自分にとって必要なものか、費用と効果は釣り合うのかを考えなければなりません。

「アカウント構造をシンプル化してインプレッションボリュームを高めると機械学習が最適化されて価値のあるインプレッションを拡大できます!」ってGoogleのセールストークは、「オプションのエアロパーツをつけたら空気の流れが最適化されて燃費が向上します!」ってディーラーの営業が勧めてきているようなものです。

片道10分のスーパーへの買い物や、何ヶ月に一回行くかどうかの家族旅行にしか使わない車で、数%の燃費向上は意味があるのか?って考えますよね。冷静に考えると、そのペースで使い続けていたら、そのオプションの金額分のガソリン代を節約するのに20年かかるじゃん、じゃぁいらないやって判断しますよね。

でも、営業車として利用する車で高速道路を中心に年間で5万kmくらい走るんだったら、購入費用は減価償却で税金対策になるのでむしろ少し高くてもいいくらいで、ガソリン代の節約でオプション代は3年くらいでもとが取れるならそのオプションはつける価値があると判断できるかもしれません。

「部分一致とレスポンシブ検索広告で価値のあるインプレッションを拡大します」と言われても、確かに「価値のあるインプレッションを拡大するのと、拡大しないの、どっちがいいですか?」と聞かれたら拡大するほうがいいように聞こえます。しかし、そもそも今の配信にまだ無駄が多くてコンバージョン単価が高い状態で、しかも予算に対してリーチが勝っている状態でインプレッション損失率(予算)が慢性的に発生している状態だったら、更にリーチを拡げるようなことをすれば、インプレッション損失率(予算)の拡大とコンバージョン率の低下によるコンバージョン単価の悪化などの、デメリットのほうが強く働く可能性が高いため、すべきではありません。

つまり、そもそもどのように広告を配信したいのかのビジョンを持って、そのビジョンに対して現状は近いのか遠いのか、で、もし遠いのだとしたら、Googleの言うことを聞けばそのビジョンに近づくのか、そう考えていくことをおすすめします。