3A からみるGoogleの意図と運用者の抵抗感

Googleが、Google 広告の検索広告についてスマート自動入札を利用する場合のアカウントの作り方について体系的に推奨した「Hagakure」や「GORIN」は比較的よく知られていますし、そしてその先の「Mugen」はGoogleが話すようになってから日が浅いこともあって知っている人も多くいます。

ところで、「GORIN」と「Mugen」の間に「3A」という推奨があったのはご存知でしょうか。

「Hagakure」から始まり、いまでも続いている名前のつけられた推奨のなかで、もっとも知名度が低くマイナー(新田調べ)な「3A」ですが、この「3A」がもっとも示唆に富む内容になっています。その背景を考えると、Googleがどの様にGoogle 広告の検索広告を使って欲しいと思っているのか、そして実際に運用をしている現場の運用者が「Hagakure」と「GORIN」についてどの様に反応していたのかが見て取れます。

「Hagakure」「GORIN」のテコ入れ策「3A」

まず、「3A」が何かというと、以下の「3つのA」です。日本人はほんと「3つの○○」が好きですね。読み方は「スリーエー」です。「サンエー」だと沖縄のスーパーマーケットになっちゃいますからね。

  • Automation:自動入札を使ってね
  • Audience:オーディエンスリストを設定してね
  • Attribution:ラストクリック以外のアトリビューションモデルでコンバージョン計測をしてね

ところで、「GORIN」でGoogleが言っていた内容は以下の5つです。

  • アカウント構造:
    機械学習が促進されて自動入札がよく仕事をしてくれるように、不必要に細分化しないでね
  • リーチの最大化:
    機械学習が阻害されないように、インプレッションシェア損失率(予算)を発生させないでね
  • ターゲティング:
    機械学習が促進されるように、オーディエンスリストを設定してね
  • 広告フォーマット:
    多彩な検索ユーザーのニーズに対応できるように広告のメッセージを充実させてね
  • アトリビューション:
    機械学習を促進させるためにラストクリック以外でコンバージョン計測をしてね

なお、「Hagakure」も言っていることは同じです。「Hagakure」は概念的すぎて何をしたらいいのかがわからない人が多かったので、具体的に何をどうしたらいいのかを明確にして説明し直したのが「GORIN」です。

見ていただいての通り、「3A」は新しいことは言っていません。すべて「GORIN」に含まれています。このことから、この3点はGoogleが特にやってほしいと思っていたことで、かつ、現場の運用者が抵抗感を示してやりたがらずに導入が進まなかった内容だとわかります。

「Hagakure」については「Google 広告の Hagakure を再解釈する」で、「GORIN」については「Hagakure と GORIN の関係を改めて解説する」でそれぞれ解説していますので改めて整理されたい方はそれぞれの記事を読み直していただければと思います。

「3A」登場の背景:不完全な「Hagakure」「GORIN」の浸透

今でこそGoogle 広告の運用についての情報発信は、まるでGoogle教の宣教師のようにGoogle神のありがたい教えを一言一句間違わずに広めることが使命と思い込んでいるかのごとく、Googleが言ったことをGoogleが言った言葉・論調でそのまま発信される傾向があります。むしろ、受け手もGoogleの発言をわかりやすく解説してくれる内容をありがたがり、Googleの発言に対して考察を加えるような内容の情報発信に対しては「それはGoogleが言っていない」「それはヘルプに書いていない」「持論乙」と否定的な反応をする傾向も見て取れるため、余計にGoogleよりの情報発信ばかりになっています。

ところが、Googleが「Hagakure」を広く話し始めた2015年から2017年くらいまでは「Hagakure」に対しては懐疑的な論調が多く見受けられ、特に当初は否定的な情報発信のほうが圧倒的に主流でした。

当然といえば当然です。

「SKAGs」はGoogleが言ったことではありませんでしたが、それまでの十数年に渡って、なるべく細かく細分化してアカウントを作ってなるべく細かく入札調整をすること、つまりは手間と時間を掛ければ掛けるほど良いと思って、日々膨大な作業に追われている状態を「いい仕事してる!」と思っていたところに、「細分化とかムダっすよ、毎日入札調整だけで1日が終わるとか終わってますよ」と全否定されたわけですから。

「3A」の内容が特に現場の運用者が抵抗を示して従わなかった内容です。

これは、当時の情報発信の論調からもわかります。当時の「Hagakure」に対する否定的な情報発信は、自動入札を利用しないのにアカウントの構造だけ集約化したり、インプレッションボリュームを高めることの意味を誤解してすべてひとつの広告グループにまとめてしまったり、根本的にダメな運用をしているだけなのに「Hagakureはダメだ」と「Hagakure」とGoogleのせいにするものが目立ちました。中には、「自動入札はブラックボックスだからGoogleが儲かるようになってるに決まっている!騙されるな!」と決めつけて掛かっている論外な情報発信もありました。

「3A」の各要素の利用が進まなかった理由の考察

Googleが「3A」の要素を促進したかった理由は明確です。「Google 広告の Hagakure を再解釈する」および「Hagakure と GORIN の関係を改めて解説する」で解説している通り、「Hagakure」および「GORIN」の内容は、Google 広告において機械学習が良い仕事をしてくれる状態を作るための取扱説明書のようなものですから、従ってくれなければGoogle 広告の機械学習がGoogleが設計した通りの仕事をしてくれません。

袋に「水に対して1.5%の塩を入れて沸騰したお湯で6分茹でてね」と書いてるパスタを、塩を適当にひとつまみふたつまみくらいしか入れずに、沸騰前の状態で麺を入れてしまって、4分くらいしか茹でなかった人に、「まずい。水ぽいし芯が残ってた。本当は星0にしたいけれども0はないので1です」とか文句を言われているような状態です。パスタメーカーとしてはコメントに困りますよね。まず言われたとおりにやってみて、そこから経験やアイディアをもとにアレンジを加えるのは創意工夫ですが、言われたとおりにやってないのに文句を言うのは論外です。

反対に、各要素についてなぜ現場の運用者が抵抗感を示して従わなかったのかを考察します。注意事項ですが、見出しに「考察」とつけている通り、これはわたしの観測範囲から、わたしが収集した情報を基に、わたしが考えた意見ですから、「答え」はどこにもありません。

Automation:自動入札の利用が進まなかった理由の考察

大きな理由は、日々の活動がまるっきり変わってしまうので、文字通りの抵抗感があったことでしょう。それまでは、なるべく手間と時間を掛けて細分化したアカウントを残業しながら作って、日々膨大なキーワードの入札価格の調整だけで1日が過ぎていって、対応しきれない業務量を抱えるのが仕事のできる運用者の証くらいに思っていたのが、急に「アカウントの構造はシンプルでいい」「入札調整は自動にまかせておいていい」「作業ばっかりしてないで頭を使って考えたら?」なんて言われても戸惑うでしょう。そして、「広告に時間を使え」と言われても、それまでは「タイトルにキーワードを含められるだけ含めたほうがいい」と思って、表計算ソフト上でキーワードごとに「{キーワード:掛け合わせ}な{キーワード:軸}なら{社名・サービス名}」のような広告を機械的に作っていただけなので考えられる頭もなく、慣れた方法にとどまりたいと思う気持ちがあっても不思議ではありません。

営業の場面でも、他の代理店の運用について「十分に細分化されてない!この代理店は手を抜いてますよ!」と指摘して、「ウチだったらここまで細かくやります!」「ウチだったら御社のために何人が何時間使って、これだけ細かく作ってこれだけ細かく調整します!」と、どれだけ尽くすかで営業していたことも大きな理由でしょう。最初に細かく細分化したアカウントを作るだけではなく、運用をしている最中でも「やってる感」を出すために、キーワードの発掘とか言って「代理店 おすすめ やすい(部分一致)」「代理店  おすすめ 安い(部分一致)」「代理店 オススメ やすい(部分一致)」など無意味な(参考:検索広告のキーワードに関するよくある誤解)キーワードの追加をして「先月は○○個のキーワードを追加しました!」なんてムダなことをして顧客満足度を維持していました。中には、Google 広告の変更履歴を取得して「先月は○回の入札調整をしました!」なんて的はずれな主張をしている人もいたくらいです。

更に逆風になったのが、広告主側の抵抗感です。もしかしたら広告主側からの抵抗が自動入札の利用が進まなかった一番の理由かもしれません。今でもそうですが、広告主側の担当者には代理店上がりの人が結構います。上記のような細かく細分化して手間と時間を膨大に掛けることが良い運用だと思い込んで代理店で仕事をしてきていた人たちなので、代理店から「Googleの言うとおり、Hagakureで自動入札を使う運用を試してみたい」と言われるとサボろうとしていると思えてしまったんでしょう。現実に、わたしも「Hagakureは代理店がサボるためのものだ。ふざけるな。こっちは金払ってんだ。サボらずに細かくやれ」と言い放った広告主を両手両足の指では収まらないくらいに知っています。

案外、「Hagakure」が広く知られるようになって5年以上経過したいまになってようやく、割と自動入札の利用が当たり前になってきているのは広告主側に「細分化が正義!」と信じて疑わない懐古主義者が少なくなったからかもしれません。

他の場面では、運用者の根本的な理解不足で、実際の広告の配信状態が悪くなってしまったことも原因でしょう。「Hagakure」および「GORIN」の解説や「SKAGs」の解説でも言及しましたが、アカウントの構造を「Hagakure」の様に集約化させるのであれば自動入札に任せてリアルタイムに最適化をしてもらわないと機械学習の恩恵が受けられず、個別クリック単価ではかえって大味な調整しかできずに悪化してしまうこともあります。逆に自動入札を利用するのにアカウント構造は旧来通りの細分化していると、機械学習が誤解をしておかしな調整をしてしまいます。また、インプレッションボリュームの意味を取り違えてなんでもかんでもまとめてしまっては、的はずれな配信をしてしまいます。

実際に、「Hagakureはダメだ!」「自動入札は使えない!」と言っている人たちのほとんどは、個別クリック単価のままでアカウント構造を集約化するか、アカウント構造は細分化したまま自動入札をつかうか、極端に集約化しすぎているかのいずれかで、「Hagakure」とか以前にその運用自体がダメだという人がほとんどでした。

Audience:オーディエンスの利用が進まなかった理由の考察

これは結構明確で、理由は不理解と見落としです。自動入札の利用についてはようやく誤解が解けてだいぶ利用が進んでいますが、オーディエンスリストの利用は未だに十分に普及したとは言い切れない状態にあります。つい先日も「オーディエンスリストって検索広告にも使えるんですか?」と臆面もなく言われたことがあります。この理解の人がひとりふたりじゃないレベルでいます。基本機能ですし、今だったら最適化案でオーデイオエンスリストの利用はしつこいくらいに提案されるはずなので、知らないほうがむずかしいような気もするんですが、どうしたらいいんでしょう。

あとは、見落としです。これは今でも多いですね。コンサルティングで診させてもらったアカウントについて「ユーザーリストを設定していないのはなぜですか?」と聞くと「あ。忘れてました」と答えられることがかなりの頻度であります(本当にやろうとは思ってたけれども忘れてたのか、やろうと思ってなかったのかは追求しませんけど)。

Attribution:アトリビューションの利用が進まない理由の考察

あえて「進まなかった」ではなく「進まない」と書きましたけれども、これは今でも進んでいないからです。先日もコンサルティングの場で、複数の接触を評価できるアトリビューションモデルに変更を提案して、責任者は納得してくれたので線形モデルに変更をしたアカウントがあったんですが、現場担当者が「なぜかコンバージョン数に小数点が出てたんでおかしいなと思って調べたら線形になってたんでラストクリックに戻しました!」と元気よく報告をもらいました。意味がわからないんですが、現場の人達の感覚ではコンバージョン数に小数点が出ることはダメなことみたいです。

あとは、なぜかラストクリックで計測しないと正確じゃないと思い込んでいる人もいるようです。複数のポイントを評価できるモデルに変更したほうがいいですよ、とアドバイスをしても「コンバージョンを分けられちゃうと実数と合わなくなる」などと言った理由で抵抗されることがよくあります。そもそもGoogle 広告のコンバージョン計測は、コンバージョンに寄与したかどうかをカウントしているものであって、購入なり資料請求なりの実数を計測するものでもないんですが、なぜかこの誤解をしている人が多くいます。ラストクリックで計測しても実数とは合いませんよ?

Google 広告を使うならGoogleの考えは理解せよ

GoogleはGoogle 広告メーカーですから、まずはメーカーの言うとおりに使ってみるのがあるべき姿勢です。そこから実際の状況や自分の経験などにもとづいてアレンジを加えていくのは創意工夫として褒められるべき姿勢ですが、基本機能を理解しないまま利用しようとしたり、自称詳しい人の言いなりになってみたりするのは褒められたものではありません。

Google 広告を利用する以上、GoogleがGoogle 広告はどんな事ができるように作っていて、Googleが想定した結果を得るためにはどの様にGoogle 広告を使ったらいいのかを理解するのは当然にするべきことでしょう。そして、Googleは特に「Hagakure」以降は積極的にこれらの情報を開示していますから、むずかしいことではありません。

ただ誤解してほしくないのは、「Googleがこうした方が最適化が進むって言っていた」を免罪符の如く使って、なんでもかんでもGoogleの言いなりになるのは違います。

パスタでも作りたい料理によっては塩分濃度も茹で時間も袋の表記とは変えることがあります。例えばボンゴレビアンコだったらアサリからも塩分が出るので茹で汁の塩分は少なめにして、茹で時間も早めに上げてアサリの出汁の中で煮て仕上げたほうが美味しくなりますし、クリーム系のパスタの場合はあまり歯ごたえがあると口の中で一体感がなくなってしまうので袋の表記よりも長く茹でる場合もあります。袋の表記を基準にして、作りたい料理に合わせて理由をもって塩分量や茹で時間を前後させることでより美味しくできます。「袋に塩分濃度1.5%で6分と書いてあった」と言って、全部のパスタ料理を袋の茹で時間と塩分濃度で作って出すイタリア料理屋はプロとは言えません。

Googleの言う通りの運用を基準にしてそこからアレンジを加えていくのが正しい姿勢です。そういった意味では「3A」は「Hagakure」「GORIN」のなかで普及が進まなかった内容のテコ入れだったので、とくべつ「3A」で理解すべきことはありません。自動入札を利用した運用をするのなら、まずは「Hagakure」(厳密には「GORIN」)の内容を正しく理解して、そこにアレンジを加えるのなら理由と理屈を持ってチャレンジしましょう。では今回なぜあえて「3A」を取り上げたのかと言うと、「3A」の内容は現場の運用者たちが抵抗感を示して進まなかったりとか、いまも進んでいない内容なので、同じ様に思って従っていない人が今でも多いんじゃないかと思ったので、見直すきっかけにしてもらえればと思って書きました。