Hagakure と GORIN の関係を改めて解説する

先日、スマート自動入札を利用してGoogle 広告の運用をする際に理解しておくべき基本的な概念の「Hagakure」を、2020年(記事公開時点)の視点で再解釈して、実際の運用に活かせるように再構築した「Google 広告の Hagakure を再解釈する」を公開しました。この記事の目的はGoogleの教えを一言一句漏らさずに伝えることではなく、現実の広告運用に活かせるように解釈し直して説明することでしたので、2015年当時にGoogleがしていた説明とは異なっています。

ところで、「Google 広告の Hagakure を再解釈する」を読んで、「これ、GORINの説明では?」「HagakureとGORINってどう違うんだっけ?」と思われた方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。

今回はそのあたりの疑問にもお答えしつつ、「GORIN」の解説をします。

「Hagakure」と「GORIN」は本質的に同じもの

そもそも、「Hagakure」は内容として不十分だったので、スマート自動入札を活用した検索広告の運用をするために必要な考え方を改めて説明し直すのが「GORIN」の目的でした。なので、「Hagakure」と「GORIN」は本質的に同じものです。

「Hagakure」と「GORIN」をGoogleの言葉に忠実に説明すればそれぞれ異なる説明になりますが、現実にスマート自動入札を利用した検索広告の運用のために必要な情報を伝えようと思った場合、その説明は同じになります。より厳密には「Google 広告の Hagakure を再解釈する」は、「Google 広告の GORIN を再解釈する」としたほうがGoogleの原典に近くはなりますが、それは巷の運用者の感覚とは異なるのであえて「Google 広告の Hagakure を再解釈する」という見出しにしました。

Googleが「Hagakure」を出した目的と背景

おさらいですが、Googleが「Hagakure」を世に出した背景には、過剰にアカウント構造を細分化するのが良いとされた風潮があります。キーワードごとに最適な広告とリンク先を設定したい、キーワードごとに最適な入札をしたいという思いから、ひとつの広告グループにはキーワードをひとつだけにするという、過剰にアカウントの構造を細分化するのが流行りました。

過剰に細分化された結果、人の手に余ってGoogle 広告本来の効果が発揮できていないアカウントや、入札調整に追われるだけで広告は「○○市の○○なら{会社名}」のような何も考えてない広告だけで何年間も回してるだけになっているアカウントばかりになりました。

この状況をGoogleが見かねて、「スマート自動入札を利用すれば、過剰に細分化しなくても機械学習が適切な広告とリンク先を選んで表示してくれるよ」「むしろスマート自動入札を利用すれば様々なシグナルから検索ユーザーのニーズを判断してリアルタイムで最適化するから人間よりも高精度な運用ができますよ」と言って、過剰な細分化をやめさせようとしたのが「Hagakure」です。

「Hagakure」はスマート自動入札の説明としては不十分だった

「過剰な細分化をやめてね」「スマート自動入札を利用してね」と「Hagakure」を推奨してスマート自動入札の利用が進んだ結果、スマート自動入札がよく働いてくれる場合とそうじゃない場合がわかってきました。それを体系立てて、「Hagakure」では不足していた情報を補足したのが「GORIN」です。

劇場公開された作品がブルーレイになるときに、カットが修正されて作品の完成度が高まったり、シーンが追加されたり、副音声で製作陣やキャスト陣のオーディオコメンタリーが入ったりして理解の解像度が高まったりするパッケージがありますが、あんな感じです。スマート自動入札を活用した検索広告に関する情報のオリジナル劇場公開版が「Hagakure」で、ブルーレイ豪華特装版が「GORIN」です。

ときおり、「Hagakure」と「GORIN」の違いはなんですか?だったり、「Hagakure」と「GORIN」はどっちのほうがいいですか?といった質問をされることがありましたが、その質問はナンセンスです。「Hagakure」と「GORIN」は本質的に同じものです。あえて言うなら、「Hagakure」をGoogleがいい出した背景を理解した上で、「GORIN」の内容を理解するのが順当です。

「GORIN」はスマート自動入札の取り扱い説明書

「Hagakure」は「スマート自動入札を使ってね」がメッセージでしたが、「GORIN」は「スマート自動入札はこう使ってね」がメッセージです。「Mugen」や「Seach Excellence」などの後発の情報が出てきてから「GORIN」はもう古いと言う人も出てきていますが、誤りです。今でも、「GORIN」はスマート自動入札を利用する運用の基礎になっていますので、しっかり理解することをおすすめします。

なお、名前を出してしまったので少し触れますが、「Mugen」は「GORIN」のその先についての推奨なので場面が異なり、「Search Excellence」は今までGoogleが色々言ってきたことを体系立てて再構築したものなので「GORIN」は内包されています。

「GORIN」の構成要素

その名の示すとおり、「GORIN」の構成要素は5つあります。「GORIN」内では明言されていませんが、スマート自動入札を利用することが前提です。スマート自動入札ではなく個別クリック単価(拡張クリック単価も含む)を利用するのにアカウントの構造だけ「GORIN」にするのはナンセンスです。この点については「細分化よりも集約化の方が良いとは限らない」で説明しています。

  • アカウント構造:
    機械学習を阻害する過剰な細分化を避けたアカウント構造にすること
  • リーチ:
    機械学習を阻害するインプレッションシェア損失の発生を避けること
  • ターゲティング:
    機械学習のデータ量を増やして精度を向上させるためにオーディエンスリストを設定すること
  • クリエイティブ:
    多彩な興味関心に対応できるように広告のメッセージを充実させること
  • アトリビューション:
    機械学習のデータ量を増やして精度を向上させるためにアトリビューションモデルを活用すること

以下、それぞれの項目について掘り下げます。ただ、多くの部分が「Google 広告の Hagakure を再解釈する」と重複しますので、「Google 広告の Hagakure を再解釈する」をお読みいただいた方はこの章は飛ばして差し支えありません。

アカウント構造:機械学習を阻害する過剰な細分化を避けたアカウント構造にすること

Google 広告の検索広告で重要なのは、どんな人に(ユーザー属性・オーディエンス・地域・デバイスなど)、どんなときに(検索しているキーワード・曜日時間など)、どんな広告を見せて、どんなページに行ってもらったらコンバージョンに至ってくれるのかを考えて、それぞれの段階を理想的な状態に近づけていくことです。これが検索広告の最適化です。

ところで、Google 広告の検索広告において機械学習は、過去の配信結果から「今回のオークションではこの広告をいくらの金額で入札をするとコンバージョンに至ってくれる可能性が高く、かつ、入札戦略や予算などで指定された条件も満たすはず」と予想をして広告を選んだり入札価格を設定したりしています。そして、その配信結果を以降のオークションに活かします。

機械学習には「意味」が理解できずあくまで数値(確率)での判断になりますので、試行回数が少なければおかしな結論を出してしまうことがあります。そして、Google 広告では広告グループでターゲティングと広告・リンク先を管理しますので、広告グループあたりの表示回数が機械学習にとっては試行回数になります。不必要に広告グループを細分化すると試行回数が分散してしまい機械学習が阻害されるので、過剰に細分化を避けるように推奨しています。

リーチ:機械学習を阻害するインプレッションシェア損失の発生を避けること

インプレションシェア損失、特にインプレションシェア損失率(予算)の発生は機械学習を阻害します。機械学習が介入できるタイミングはオークションの発生時ですが、オークションの発生時に機械学習は「この広告をこの金額で入札したらコンバージョンに至ってくれる可能性が高いし、入札戦略や予算で指定された条件も満たせる」と判断して入札をし、その結果がコンバージョンの獲得につながったのかそうではなかったのかを学習します。

インプレッションシェア損失が発生していると、インプレッションシェア損失によって広告が表示されなかったためにコンバージョンの獲得に至らなかっただけの状況を、「この広告をこの金額で入札したんではコンバージョンの獲得に至らない」と誤って学習してしまう恐れがあります。「いや、表示されたけれどもコンバージョンに至らなかったのか、表示されていなかったのかも学習してよ」と思われるかもしれませんが、現時点ではこういう仕様なので仕方がありません。

ターゲティング:機械学習のデータ量を増やして精度を向上させるためにオーディエンスリストを設定すること

機械学習は与えられたデータから法則性を見出して予測することで、いま発生しているオークションでの広告のセレクションと入札価格を判断するので、与えられていないデータは学習できません。広告グループにオーディエンスリストを設定しなければ、オーディエンスに関するデータが学習対象にならないのでスマート自動入札の効果を最大限に発揮できません。

「わざわざリストと設定しなくてもユーザーの興味関心を学習して配信に活かしてよ」と思われるかもしれませんが、現時点ではこういう仕様です。また、これはGoogle 広告における機械学習に限らず、機械学習の運用一般に言えることですが、どのようなデータを学習させて、どのようなデータを学習させないのかによって機械学習の成長がまるで異なります。ですから、学習させるデータ選びの良し悪しが機械学習を担当する人間の腕の見せ所です。

クリエイティブ:多彩な興味関心に対応できるように広告のメッセージを充実させること

具体的に言うと、広告グループに様々な切り口の複数の広告を作成することと、広告表示オプションを設定することの2点です。機械学習ができる介入は、どの広告を表示するのかいくらで入札するのかの2つの観点ですが、広告のバリエーションがない場合は入札価格の調整しかできず、機械学習の本来の能力を発揮できません。

様々な切り口の表現の広告を作成し、広告表示オプションで広告のメッセージを充実させることで、「この検索ユーザーに対してはこの広告メッセージ(広告と広告表示オプションの組み合わせ)だとクリックしないかもしれないけれども、こっちの広告メッセージならクリックしてコンバージョンに至ってくれるかも」と機械学習ができる仕事を増やしてね、というのがGoogleのメッセージです。

わかりやすさのために広告グループあたりの広告の数や広告表示オプションの数が示されていましたが、テニヲハを変えただけの広告を作って数を満たしたり、広告の中で謳っているの再利用だけで広告表示オプションの数を満たしのでは意味がありません。

「GORIN」のベースになっている「Hagakure」のもともとのメッセージが、「入札調整だけで回してるんじゃなくって、そこは機械のほうが得意なんだからスマート自動入札に任せて、あなたたちは広告をもっと考えなよ」なので、人間がもっとも力を入れるべきところです。

アトリビューション:機械学習のデータ量を増やして精度を向上させるためにアトリビューションモデルを活用すること

具体的に言うと、コンバージョン計測のアトリビューションモデルを「ラストクリック」以外にしてね、という推奨です。ただ、この言い方は恣意的で、「GORIN」をGoogleが話し始めたときは、ほとんどすべてのアカウントが「ラストクリック」のみでコンバージョン計測をしていたので「ラストクリック以外」という言い方がされていました。実際のところは「複数のタッチポイントが評価できるモデルにしてね」です。「ファーストクリック」での計測では意味がありません。

圧倒的に「ラストクリック」モデルが利用されていることが多いので、「ラストクリック」モデルを例に説明します。機械学習は、オークションごとにコンバージョンに至りやすそうな広告と適切な入札価格を判断して、その判断がコンバージョンの獲得につながったのかつながらなかったのかを学習します。あくまで一般論ですが、「ラストクリック」でコンバージョンを計測していると、最後の広告接触になりやすい、いわゆる指名検索と呼ばれる、商品名・ブランド名などでの検索が過大評価され、そうではない検索が過小評価されてしまいます。この状態で機械学習が促進されると、指名検索では積極的に入札をするようになりますが、指名ではない検索にはコンバージョンが計上されないので入札を控えたり、そもそも広告を表示しなようになります。そうすると、指名検索につながる広告表示が無くなり指名検索が減少し、コンバージョンの件数が先細りになったりします。

それを避けるためにアトリビューションモデルを活用して複数のタッチポイントを評価してね、とGoogleは言っています。

「GORIN」の正しい理解がスマート自動入札の基礎

スマート自動入札を活用するのなら機械学習を促進させなければなりません。機械学習を促進させるためには、機械学習が望ましい方向に学習してくれるように機械学習に学習させるデータを良く考え、適切にデータを渡してあげなければなりません。「GORIN」はGoogle 広告における機械学習へのデータの渡し方の取扱説明書です。Google 広告の検索広告をスマート自動入札で利用するのなら、「GORIN」の推奨に従うのが無難です。個人的に研究してその上を目指す活動を否定はしませんが、「GORIN」を経ずにいきなり自己流を試したり、どこかの誰かのよくわからない発言を真に受けていきなり変わったことをするのはおすすめしません。

明確な根拠と理屈で、自信を持って「こうしたほうがいい」と思うことがあるのなら、それは「GORIN」から外れても試す価値はありますが、そうではないのならアカウントの構造やGoogle 広告の機能の利用は「GORIN」に従って、広告や広告表示オプションの内容を考えることに時間を使った方が良い結果に繋がります。