ネット広告の代理店は広告費の扱いで選ぶべき

オンライン運用型広告の代理店に支払う費用については、手数料よりも広告費の方が重要です。

しかしながら手数料については、「なんで広告費の20%なんだ」や「広告費が増えたら手数料も増えるのはおかしい」などの議論が定期的に起きていますが、広告費の扱いが話題に上がることは稀です。

ですが、実は広告主様にとっては広告費の扱いこそ注意が必要です

なぜなら、広告費の扱いについては不正が関わるからです。

2017年に大手広告代理店の不適切業務についての報告がなされましたが、この不適切業務の中身は、実際に使った広告費よりも多くの広告費を広告主に請求し、手数料よりも多くの利益を不当に得ていた、というものでした。以降、この記事では「広告媒体に支払うよりも多くの広告費を広告主に請求し、手数料よりも多くの利益を不当に得る行為」を「不適切業務」と表現します。

現在でも不適切業務をしている代理店が残念ながら存在します。

そこでこの記事では、代理店に支払う費用のうち広告費について着目し、存在するバリエーションとそれぞれの注意点についてまとめます。

なお、この記事は広告主様が知らずに不利な契約をしてしまわないように、情報の非対称性を解消するために必要な情報を提供することを目的としています。特定の代理店を批判する意図はありません。

広告費の払い方:「広告主払い」か「代理店払い」か

まず、広告費の払い方についてのバリエーションを紹介します。

広告費の支払い方は大きく「広告主払い」と「代理店払い」に分けられます。

結論だけ先に簡潔に述べると、「広告主払い」は代理店が不適切業務をする余地がないメリットがある反面、管理が煩雑になる点がデメリットです。

また、代理店の設定ミスにより予期せぬ配信があった場合に、広告主様はまず媒体に広告費を支払った上で、代理店への責任追及は広告主様がしなければならないリスクがあります。

一方で「代理店払い」の場合、アカウントが開示されない場合は、不適切業務が可能な構造であることがリスクです。

しかしながら、広告主側の会計処理が簡単になるほか、後払いの場合、代理店のミスによって予期せぬ広告費が発生しても支払い義務はまず代理店に発生するため、責任追及のリスクが低減できるメリットがあります。

以下、広告主払いと代理店払いの詳細を説明します。

不適切業務の余地がない「広告主払い」

広告費の広告主払いの概要とメリット

広告主払いは、広告主様が各広告媒体に広告費を支払います。

代理店に対して支払うのは手数料のみなので、代理店は不適切業務をする余地がありません。

広告費の広告主払いのデメリット

ただし、広告費の管理は広告主様の責任となり、きちんと管理をしないと入金を忘れたりクレジットカードの有効期限切れや限度額オーバーなどで広告の配信が停止してしまう恐れがあります。

また、大抵の広告媒体では一定の金額ずつクレジットカードに対して請求が発生するため、帳簿等が面倒になるなどのデメリットがあります。

広告費の広告主払いのリスク

さらに、代理店が設定ミスをしたなどで予期せぬ広告費が発生した場合、責任追及を広告主様がしなければならないリスクがあります。

予期せぬ配信によって予算を超える広告費が発生した場合や、取り決めたターゲティングとは異なるユーザーへの配信であったり、誤ったクリエイティブでの配信があったりした場合、そのような広告費であっても広告主様はまず媒体に支払わなければなりません。そして、その後で代理店に対して補填を求めなければなりません。

そのため、代理店が居直った場合などは、回収のための法的手続きや費用が必要になったり、費用倒れのために泣き寝入りをしなければならないリスクがあります。

不適切業務をしようと思えばできる「代理店払い」

代理店払いの場合、広告主様は代理店に対して広告費と手数料を合わせて払い、代理店が広告媒体に広告費を払います。

広告費の代理店払いは、さらに前払いと後払いに分岐して、後払いはさらに予算請求と実費請求に分岐します。不適切業務のリスクの大きさは 前払い > 後払い(予算請求) > 後払い(実費請求) の順になります。

以下、それぞれの方式について説明します。

必ず差額が発生する「代理店払い・前払い」

広告費の代理店払い・前払い の概要とメリット

「代理店払い・前払い」は代理店に対して広告費を予納する方式です。

例えば、3月の広告予算を100万円/月とする場合、3月1日までに代理店に対して100万円を予め支払っておき、代理店はその100万円から各媒体に広告費を支払います。

広告主様にとっては、会計の管理が簡単になるメリットがあります。また、広告費の管理をする手間や、管理不足による意図せぬ配信停止などが発生しません。

さらに、代理店の設定ミスにより予算以上に広告費が発生したとしても、媒体に対する広告費の支払いを代理店にさせられるため、代理店に対する責任追及がしやすくなり、余計な広告費を支払わされるリスクを低減できます。

広告費の代理店払い・前払い のデメリット

ところで、運用型広告は別名PPC(Pay Per Click)と呼ばれるように、1クリックあたりに広告費が発生するため、1ヶ月の広告費がピッタリ100万円になることはまずありません。なので、実際に使用された広告費と代理店に支払う広告費の間には必ず差額が生じます。

そのため、実際に使用された広告費がいくらなのか、差額がいくらあるのかを常に把握しなければなりません。つまり、自衛のために、代理店を監視し、差額を管理する手間が必要になります。

広告費の代理店払い・前払い のリスク

【不適切業務をされるリスク】

管理画面を見せてくれる場合は実際に使用している広告費が確認できるため不適切業務は回避できます。

しかしながら管理画面を見せてくれない場合は、不適切業務をされるリスクがありますので注意が必要です。

管理画面を見せてくれない場合、広告費の確認は提出されるレポートですることになりますが、レポートはいくらでも捏造・改ざんが可能です。実際、大手代理店の不適切業務でもレポートの捏造・改ざんが行われていたと報告書に記載があります。

広告費の列に予算が記入されているレポートが出されたら、特に注意が必要です。

その場合、クリック単価やコンバージョン単価なども実際の金額ではなく予算から割り戻された数字になっているため実態とは異なるため、そもそもレポートとしての価値もありませんが。

管理画面のスクショなどが証拠として提出されていたとしても、ブラウザのスクショも簡単に捏造・改ざんできてしまいますから証拠にはなりません。

【広告費を持ち逃げされるリスク】

前払いでは、実際に広告が配信される前に広告費を支払わなければならないため、広告費を持ち逃げされてしまう可能性があります。

【見積もりの甘さにより多くの差額が生じるリスク】

前払いでは、配信を開始する前に予算を決めるため、見積もりの精度が悪いと実際に配信できる広告費を大きく上回る予算を予め支払わなければならなくなり、多くの差額が生じてしまう可能性があります。

【差額の回収リスク】

仕組み上、必ず差額が発生するため、代理店を解約する際に差額を返してくれなかったり、代理店が倒産した場合に不良債権を抱えるリスクがあります。

特に解約時は「仕組み上返金ができない」と嘘をついてゴネる代理店も存在します。

【契約以上の手数料を支払わされるリスク】

さらに、手数料も払いすぎる可能性があります。

例えば、予算は100万円だったとしても、実際に使われた広告費が90万円だったとします。契約手数料が「広告費の20%」の場合、手数料は90万円の20%で18万円でなければなりません。しかしながら予算の20%である20万円が請求される場合が少なくありません。

この場合「広告費の20%」は嘘で、2万円多く支払わされていることになります。

広告費の差額はどこかのタイミングで精算されても、多く支払われた手数料については取られっぱなしになることも少なくありません。

《小話:【実録】解約時のゴタゴタ》

実際にわたしがコンサルティングで関わらせてもらった広告主様が使っていた代理店が、「見積もりの甘さによる多額の差額が生じるリスク」と「差額の回収リスク」と「契約以上の手数料を支払わされるリスク」のトリプルコンボを達成しました。

予算20万円に対して、実際には月々5万円程度しか配信しておらず、2ヶ月足らずで30万円程度の差額が生じていました。また、手数料は「広告費の20%」の契約にも関わらず毎月予算の20万円に対して掛けられた金額が請求されていました。

この代理店は約束を守っていなかったので債務不履行を理由に解約しましたが、この代理店は「Google 広告の仕組み上、前払いしてもらった広告費は返金するのが不可能」で「差額分はGoogleに取られちゃうだけだから配信を継続したほうが良い」と嘘をついて、売上と代理店としてのGoogle 広告の利用額を守ろうとしました。

当然、嘘を暴いて広告費および過大に請求された手数料ともに返金させましたが、広告主様自身が対応にあたったら泣き寝入りさせられていた可能性があります。

なお、代理店がGoogleなどの広告媒体に対して広告費を前払いすることは基本的になく、広告主様が前払いした広告費は代理店の銀行口座に入っています。なので、Google 広告の仕組みはそもそも関係がありません。また、仮に実際にGoogle 広告に前払いをしていたとしても、Googleからの返金は当然受けられます。なので、この代理店の発言はすべての点において嘘しかありませんでした。

これを大手代理店の不適切業務の報道後も続けていたのだから驚きです。

後払いでも差額が生じる「代理店払い・後払い(予算請求)」

広告費の代理店払い・後払い(予算請求)の概要とメリット

「代理店払い・後払い(予算請求)」は、使用した広告費を後から払う方式のうち、実際に使用された広告費ではなく、予算の金額を払う方法です。

会計管理や広告費の管理の手間の削減、意図せぬ配信停止が起こらない点などは「代理店払い・前払い」と共通のメリットです。

また、広告費を持ち逃げされるリスクは回避できます。

さらに、代理店のミスにより予期せぬ広告費が発生した場合のリスクもある程度低減できます。まずは代理店が媒体に対して広告費を支払い、その後、広告主様が代理店に対して広告費を後払いしますが、予算を超えた広告費や意図せぬ配信の分については支払いを拒む余地があります。

広告費の代理店払い・後払い(予算請求)のデメリット

この方式の場合も「代理店払い・前払い」と同じように、実際に使用された広告費と代理店に支払う広告費との間には、必ず差額が生じるため、実際に使用された広告費と差額を常に把握する必要があります。

広告費の代理店払い・後払い(予算請求)のリスク

【不適切業務をされるリスク】

こちらの場合も、管理画面を見せてくれる場合は安心して良いでしょう。

管理画面を見せてくれない場合の注意点は前払いと共通です。

【差額の回収リスク】

前払いと同様です。

仕組み上、必ず差額が発生しますので、差額の回収のリスクが生じます。

【契約以上の手数料を支払わされるリスク】

また手数料についても前払いと共通です。

使用していない広告費の分も手数料を払わされる可能性があります。

比較的リスクは少ない「代理店払い・後払い(実費請求)」

広告費の代理店払い・後払い( 実費請求)の概要とメリット

「代理店払い・後払い(実費請求)」は、使用した広告費を後から払う方式です。

会計管理や広告費の管理の手間の削減、意図せぬ配信停止が起こらない、持ち逃げをされる可能性がない、意図せぬ広告費が発生した際に支払いを拒否できる余地があるなどのメリットは「代理店払い・後払い(予算請求)」と共通です。

さらに、不適切業務をされる可能性をかなり下げられます。

要は広告費の支払いを代理店に立替えてもらっているだけなので、代理店が実際に使用した広告費を正しく報告している場合は、代理店は不適切業務をする余地がありません。

広告費の代理店払い・後払い(実費請求)のデメリット

仕組み的に差額の発生が必然ではありません。なので、その観点では代理店の監視や差額の管理は必要ないため、デメリットはありません。

ただし、管理画面を見せてくれない場合は、嘘の広告費を報告されたり請求されたりする可能性は残るため、代理店の監視は必要です。

広告費の代理店払い・後払い(実費請求)のリスク

【不適切業務をされるリスク】

管理画面を見せてくれる場合は広告費をごまかしようがないので代理店は不適切業務をする余地はありません。

管理画面を見せてくれない場合も、レポートの広告費の部分は予算のようにキリの良い数字ではなく細かい数字となります。なので、捏造・改ざんはしにくいため、「代理店払い・後払い(予算請求)」に比べるとリスクは少なめです。

ただし、大手代理店の不正請求の場合、嘘っぽくない嘘のレポートを作っていたと報告されていますのでレポートだけで信用するのはリスクです。先述したとおり、管理画面のスクショは証拠になりません。

なので、管理画面を見せてくれない場合は、「代理店払い・後払い(実費請求)」であっても不適切業務は可能なので、適切に代理店を監視しなければなりません。

広告主様が自衛のために契約前に確認すべきこと

最後に、広告費の扱いの観点で、代理店と契約を結ぶ前に広告主様が確認すべきだとわたしが考えている事柄を紹介します。

実際の広告費を確認するために「管理画面を見せてくれるのか」

どの支払い方式でも、「実際に使用された広告費」を確認するのが安全です。

一番は、実際に配信されている管理画面そのものを見せてもらうことです。

スクショは簡単に捏造・改ざんができますが、広告主様が自分の手元で見る限り、捏造・改善の余地はなくなります。

管理画面を見せてくれないなら「代わりの証拠」をどうするのか

管理画面は「ノウハウなので」とか、(そもそもそれ自体が終わってるんですが)「他の広告主様の情報も含まれるので」などと言って見せてくれない代理店も少なくありません。この場合は、実際に使用した広告費の証拠をどうするのか、決めておくことをおすすめします。

「たしかにこれなら嘘をつけないね」と納得できる証拠を決めて、契約書などに記載すると安心でしょう。たとえば、API連携されたレポートツールへのアクセス権をもらうなど、管理画面ではなくても捏造・改ざんが難しいものを手元で見られるようにしてもらうと良いでしょう。

なお、広告費を予算で置き換えたり、広告費の金額そのものを書き換えが可能なレポートツールも存在しますので、共有されるレポートツールが何なのかと、そのレポートツールの仕様も合わせて確認することを強くおすすめします。

設定ミスにより予期せぬ広告費が発生した場合の「補填方法」

すべての支払い方式について代理店の設定ミスなどにより予算を超える広告費が発生したり、想定していなかったターゲットへの配信や誤ったクリエイティブでの配信によって、望まない広告費が生じる可能性があります。

特に、広告主払いの場合は、まず広告主から媒体に広告費を支払うためリスクが大きくなります。

このような配信があった場合の広告費の補填方法及び、補填が必要であることの立証責任、補填額の算出方法などを予め定めておくことをおすすめします。

「差額の管理方法」および「解約時の精算方法」

「代理店払い・前払い」および「代理店払い・後払い(予算請求)」では、必ず差額が発生します。なので、この差額の管理方法および差額の精算方法を決めて、契約書などに記載すると安心でしょう。

差額の管理については、代理店の見積もりが甘く多額の差額が発生する可能性もありますので、「予算の金額を予納する」のではなく「代理店に予納されている金額が予算と一致するように予算と差額の差分だけ支払う」など、差額を小さくする運用を定めることをおすすめします。

また、解約時の精算方法については、解約したい代理店で差額がなくなるまで配信を継続したい理由はないでしょうから、「解約時に差額を返金する」旨を契約書などに記載すると良いでしょう。

広告主の管理不足によって「広告が停止した場合の手数料」について

「広告主払い」の場合、広告主側の管理不足によって広告の配信が停止してしまう可能性があります。この場合、広告が停止している期間の手数料をどうするのかを定めておくことをおすすめします。

特に定めなかった場合、広告は停まっているのに手数料だけ支払い続けなければならなくなる可能性があります。

性悪説で考えて契約を結ぶべき

これは広告代理店との契約に限らずですが、仕組みや制度の設計であったり契約は「性悪説」で考えることをおすすめします。そのためには正しい知識が必要ですので、この記事がその一助になれば幸いです。

また、広告費の扱いについては代理店によって異なりますので、今の契約を結ぼうとしている代理店との契約内容を変えるより、契約する代理店自体を変えてしまったほうが早い場合もあります。そもそも広告の運用を始める前の段階での提案にはほとんど差がありませんから、広告費の取り扱い方法もその代理店の良し悪しの判断材料のひとつとして組み込んでみることをおすすめします。