2022年2月より、Google 広告のPremier Partnerの要件が変更されました。
従来の「要件を満たせば誰でもPremier Partnerになれた」状況から、「要件を満たした代理店のうちの上位3%だけ」がPremier Partnerの要件となりハードルが高くなりました。なので、Premier Partnerとなった代理店さんは「数少ない選ばれしPremier Partnerである」ことを一層強く打ち出すようになりました。
なんか凄そうにみえるPremier Partnerですが、その実態はどのようなものなのか、広告主にとってはどういう意味を持つのかを明らかにしたいと思います。
なお、この記事はPremier Partnerの要件とその実態を明らかにし、広告主様が代理店を選ぶ際の判断の助けとなることを目的としています。
Premier Partnerの代理店およびPremier Partnerになりたい代理店を批判する意図はありません。
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Google 広告のPremier Partnerの要件
2022年2月以降のGoogle 広告のPremier Partnerの要件は以下のとおりです。
- Google 広告のPartner 要件を満たすこと
- 各国の参加代理店の上位3%(毎年決定)にランクインすること
詳しくはGoogle 広告のヘルプのGoogle Partner または Premier Partner になる方法をご確認ください。
従来はPartnerの要件を満たすことがすなわちPremier Partnerの要件でしたし、Partner 要件は満たせないほうが難しい内容でしたのでPremier Partnerには大した意味がありませんでした。
2022年2月からは「その上で上位3%」という条件が加わり、今までになかった要件も追加になっているので、Premier Partnerは一握りの選ばれた存在になっています。
ですが、それが広告主様にとってプラスかどうかはまた別の観点です。
Google 広告のPartnerの要件
まず、Partnerの要件は以下のとおりです。

詳細は、Google 広告のヘルプのGoogle Partner になる方法をご確認ください。
ひとつひとつの要件を確認していきましょう。
すべてのアカウントの最適化スコアが70%以上
この最適化スコアは、管理画面上に表示されている数字が70%を超えていればOKです。
つまり、すべての最適化案を「非表示」にすればこの要件は満たしますので、アルバイトや学生インターンにすべてのアカウントの最適化案を非表示にする作業をさせても達成可能です。
なので、「Premier Partnerである」 → 「Partnerの要件を満たしている」 → 「最適化スコアを高くキープしている」までは『真』ですが、「故にレベルの高い運用をしている」は『偽』です。
運用のレベルが低くとも最適化スコアを70%以上に保つことは可能です。
代理店として90日間で約115万円以上利用している
これは満たさないほうが難しい基準なのは言うまでもありません。
また、代理店として扱っている金額の多少と実力のあるないには関係がありません。
50%以上のアカウントマネージャーが認定資格を保持している
Google 広告の認定資格は、新卒・中途採用ともに内定者に対して「入社までに取れなかったら内定取り消しだから」と入社前に取らせる代理店も少なくありません。実務経験がない未経験者でもふつうに勉強したら誰でも取得できる程度の内容です。そして、ガリ勉をする必要はなく、未経験でも早い人は1日で取ります。
そもそも、ふつうにGoogleが覚えるべきことをスキルショップで公開していますし、非公式に問題と答えを勝手に公開しているブログなどもあります。
また、試験の内容も用語や仕様に関する知識・理解を問うものであって、実際にコンバージョンを増やせるのか、コンバージョン単価を下げられるのかなどの運用の実力とは関係がありません。知識が豊富な車オタクでも車の運転が下手な人は沢山いますし、速いレーシングドライバーが必ずしも車そのものに対する知識が豊富とは限らないのと同じです。
Partnerの要件は広告主にとっては関係ない
以上が、Partnerの要件です。
いずれの項目も実力の有無を示すものではなく、実力の有無とは無関係に満たせてしまう要件であることがわかったと思います。
Google 広告のPremier Partnerの「上位3%」の要件
次に、Premier Partnerの「上位3%」の要件を掘り下げてみてみます。
上位3%を決定する要因は以下のとおりです。

ひとつひとつ見ていきましょう。
クライアントの成長率:広告費が増えていても実力があるとは限らない
「成果が良いので広告費を増やす」ってことはありますが、「成果が良くても広告費を増やさない」こともあれば、「成果が良くなくても広告費を増やす」こともふつうにあります。なので、広告費が増えているからと言って代理店の実力があるとは限りません。
実際、ビジネス自体のキャパで請けられる仕事の上限がある広告主様は少なくありません。その場合は、むしろより少ない広告費で達成できる方が良い運用なので、広告費が減っている方が実力のある代理店です。
また、そもそも代理店は「使った広告費の◯%」の手数料を取ることが多いため、広告主に広告費を使わせれば使わせるだけ儲かります。なので、広告費の◯%という手数料のとり方をしている代理店は「なるべく多くの広告費を使わせよう」と積極的に増額の提案をしがちです。
ところが実際のビジネスにおいては「これは広告費を使いすぎで効率が悪いから広告費を減らしたほうがいい」「その分、アルバイトを雇うとかノベルティを充実させるとかにお金を使ったほうがいい」という場面は多々ありますが、広告費の◯%という手数料の取り方をしている代理店でこの提案ができるのは100社中の101社目以降です。
代理店はただでさえ増額をさせたいと思っているのに、Premier Partnerの代理店およびPremier Partnerになりたい代理店にはその上さらに「Google 広告の広告費を増やしたい」って気持ちが働くことになります。とくにPremier Partnerの見直しの時期などは、「CPAが上がってもいいからGoogle 広告の消化を増やせ」という指示が代理店の社内で出ることは想像に難くありません。
実際、ある広告媒体(仮に「Y」と呼称します)ではインセンティブチャレンジが定期的に行われており「インセンティブのためにYの消化を増やさなきゃならないから、今月はCPAが上がってもいいからYにアロケしろ」という指示はすでに少なくない代理店で日常的に行われています。これが今後はGoogle 広告でも行われるようになる可能性が無視できません。
クライアントの継続率:継続しているからと言って実力があるとは限らない
次に、継続率についての要件です。
『広告費だけだったら「営業をかけまくって増額をさせればOK、成果不良で解約されてもまた新規を取ればいい」ってことになっちゃうじゃん、だから継続率も指標にします』と考えたかどうかはわかりませんが、量と質の両立みたいなことは基準を作る側はよく言います。
ところで、実際のところ、実力のあるなしとアカウントが継続するかどうかには関係がありません。
市場が成熟していて商品・サービスの工夫がなされていない場合などは「現状維持が一番良い状態」って場面は多々あります。実力がある代理店は、データに基づく論理的な考察のもとに「高望みをして余計なことをすればするだけ悪くなるから現状維持が正解」と話します。ところがこれを「やる気がなくて提案がない」と言って解約してしまう広告主は少なくありません。
また実際のところ、広告主が必ずしも成果だけで代理店との関係を継続しているとも限りません。
「顧問弁護士・税理士の紹介だからこの代理店を使わざるを得ない」「社長同士が友達だから」「広告以外のこともやってくれるから」「毎月来てくれる担当者が若くてかわいい女性社員だから」これらは実際にわたしが見聞きした「いまの代理店を使っている理由」です。
また解約されないように、意味はないけれども「やってる感」が出る施策のようなものを繰り返す代理店も少なくありません。
なので、アカウントの継続率が良いからといいって実力がある代理店とは限りません。実力はなくとも解約されない理由があるとか、解約されない努力が上手いだけの代理店も多々あります。
サービスの多様化:いろいろな広告をさせることが広告主目線とは限らない
サービスの多様化は検索広告以外で使っている広告費の割合が増えているかどうかを見ています。
商品・サービスの特徴や市場によって適する広告手法は異なります。いろいろな広告をやれば良いわけではありません。
「クライアントの成長率」のところでも触れたとおり、この項目によって「動画広告を使わせることを目的とした動画広告を追加する提案」などがされる可能性があり、いろいろな広告手法を提案してくることが必ずしも広告主目線で考えられた結果とは限りません。
これはどのような営業提案についても同じですが、Premier PartnerおよびPremier Partnerになりたい代理店が、Google 広告のまだ使っていない広告を提案してくる場合は、広告主様の方を向いておらずGoogleの方を向いた提案である可能性が少なからずあります。
年間のご利用額:広告費が増えるのは新規営業が支配的
100万円/月のGoogle 広告のアカウントを増額によって200万円/月にするよりも、100万円/月の広告主を新規に獲得するほうが難易度が低いのは言うまでもありません。
なので、その代理店のGoogle 広告の広告費の増加に対しては新規営業力が支配的です。運用で成果を出す実力があるかどうかとは関係がありません。
Premier Partnerの要件は広告主様の利益とは反する可能性がある
ここまでで、Premier Partnerの要件が実際の広告運用における実力と必ずしも関係しないことはご理解いただけたと思います。
たしかに、実力があるのでより多くの広告費を扱ってより多くの利益を広告主様にもたらしたり、実力があるので長い取引になっていたり、実力があるのでいろいろな広告手法を駆使して利益を生み出している代理店もいるでしょう。ですが、それぞれの項目は実力がなくとも満たせるものでした。
また、Premier Partnerの代理店およびPremier Partnerになりたい代理店が全てこうだとは言いませんが、Premier Partnerの要件は、代理店がPremier Partnerを維持したい/なりたいと思ったときに広告主の利益に反する行動を取らせる動機づけになりうる立て付けになっている、ってことは理解しておくべきでしょう。
Premier Partner要件には裏がある
さて、Partnerの要件の「最適化案」の項目について、「管理画面上の表示が最低70%」と説明しました。
なので、ここだけを見ると、「Premier Partnerになりたいがために、必要がないアカウントに部分一致のキーワードや自動入札を導入するなどはしなくていい」「だからPremier Partnerであることと広告主様の利益追求とは相反しない」と思われるでしょう。
実際、最適化案が登場した当初は、管理画面上の最適化スコアの数値とは関係がなく、「広告費が発生している広告グループのうち部分一致のキーワードで広告費が発生している広告グループの割合が◯%以上」「アカウント全体の広告費のうち自動入札のキャンペーンで発生している広告費の割合が◯%以上」など、実際にGoogleの言うとおりにしないとPremier Partnerでいられませんでした。なのでこの時代は、Premier Partnerでいたい代理店は、広告主様のためにはマイナスでも部分一致や自動入札の利用していました。
が、これには批判が殺到したためか、現在は表向きには「適さないものはやらなくていいよ」と変わりました。(実際、これについてはわたしもかなりうるさくGoogleに意見をしました)
ところがこれには裏があります。
表向きには「管理画面上の最適化スコアを70%以上にしてくれればいいですよ」「広告主様の成果に繋がらないものは非表示でいいですよ」と言っていますが、実際には「部分一致のキーワードでの広告費を伸ばした代理店を表彰します」と焚き付けたり「自動入札を使ってくれないとサポートできなくなりますよ」と担当者レベルで脅してきたりします。
なので、Premier Partnerの代理店やPremier Partnerになりたい代理店に対して、Googleは今でも広告主様の利益にならなくてもGoogleの言うとおりにしたくなる仕掛けを作ってる事実は認識しておきましょう。
「Premier Partnerだから」ではなく代理店自体をよく見よう
とどのつまり、Premier PartnerでもPremier Partnerじゃなくても、その代理店自体をよく見ましょう。
実際、Premier Partnerになった代理店の顔ぶれを見ましたが、「ここはいい代理店だね」と思う代理店もいれば、「ここはいい話を聞かない」って代理店もいれば、聞いたこともない代理店もいればです。また、Premier Partnerにならなかった代理店にも「ここはいい代理店だな」と思うところも沢山あります。
なので、はっきり言ってPremier Partnerかどうかは良い代理店かどうかとは関係ありませんから、「Premier Partnerである」みたいなわかりやすい属性で判断するのではなく、話を聞いてくれるかどうかとか、根拠に基づいて話しているかとか、ちゃんと考えてくれているかとかで判断しましょう。
Premier Partnerの代理店に仕事を頼む特別なメリットない
最後に身も蓋もないことを言ってしまうと、広告主様の立場からすると、Premier Partnerの代理店に依頼をする明確なメリットはありません。Premier Partnerでもあまりいい仕事をしない代理店に頼むのはデメリットしかないですし、Premier Partnerではなくともいい仕事をしてくれる代理店に頼むのはメリットしかありません。
Premier Partnerだからこその特典も広告主様にメリットになるようなものは特にないですし。
サポートが手厚いとかベータ版が使えるとかを代理店の営業は言いますが、広告主様には関係がないかむしろデメリットだったりもします。
サポートが手厚い云々は、Premier Partner担当がつきますけれども、あくまで連絡が付きやすい窓口がいる程度で特別なことをしてくれたりはしません。あくまで営業の人です。ですし、そもそもこれは広告主様にとっては関係がありません。
また、ベータ版が使える云々は、広告主様にとっては「自分たちがGoogleの実験台に使われる可能性がある」ってことを意味します。ベータ版って、薬で言うと治験ですから。なので、広告主様にとってはメリットではないと思いますし。
というわけで、Premier Partnerであることだけで広告主様に良いことがあるわけではないので、あくまでPremier Partnerかどうかはどうでもよく、信用できる相手かどうかを冷静に見極める姿勢が必要です。
この記事は、Google 広告について高度な知識を有するGoogle 公認エキスパートのうち、国内最初のGoogle 広告 ダイヤモンド エキスパートで、Google 広告・Yahoo!広告などの運用型オンライン広告の運用代行・コンサルティングを専門に手掛けるacssemble(アクセンブル)代表の新田真隆によって書かれました。